腰痛について

 「腰が痛い」と書いて腰痛といいますが、その痛みには様々な原因があります。椎間板が潰れて中身の髄核が飛び出し脊髄を圧迫する「腰椎椎間板ヘルニア」。脊髄が通る脊柱管が変形するなどで神経圧迫する「脊柱管狭窄症」。スポーツ選手によくある腰椎の後ろにある棘突起や横突起が折れてしまう骨折の一種である「腰椎分離」。さらに腰椎分離が原因となり椎体が変位してしまう「腰椎すべり症」。そして腰痛の大半を占めるのは原因が特定できない非特異性腰痛。

 腰に発生する痛みでもかなりの種類があります。近年、ストレスからくる腰痛も話題になっており、単純に骨の問題であったり、筋肉の問題であったりと判断しづらいというのが腰痛の難しいところです。

 私自身、会社勤めをしていた20年以上前はひどい腰痛に悩まされ歩くこともできないときもあり、日常生活において様々な問題を抱えていました。あちこち病院や整骨院や鍼灸院や整体院に足を運んでいたのですがその時は少し楽にはなるのですが、23日で元に戻るような日々を過ごしていました。

 今から考えると治療や施術をしてくださった先生方にとって厄介な患者であったことは、こういう業界に入ってきて、私が施術する立場に変わって強く思うことです。結局オステオパシーを学ぶうちに身体のことや腰痛のことが少しずつ分かってきて原因の根っこの部分が理解できてきて年数をかけて改善することで、全く腰痛に縁のない身体に変わることができました。

 そういった経験からズレた背骨や骨盤を正常な状態にするだけで本当に腰痛が治るのか?凝り固まった筋肉をほぐせば腰痛が治るのか?私自身がやっていた施術や技術に対しそれが本当に正しいのか?足りない部分はないのか?常に自問自答しながら試行錯誤してきたというのが正直なところです。

 「こうすれば腰痛は治る」という明確な答えはいまだに見つかってはおりません。いえ、むしろ考えれば考えるほどに疑問点は増える一方かもしれません。ただ一つだけいえることは多くの腰痛は一つだけの原因で起こるものではないというのはないということ。百人の腰痛の方がいらっしゃれば、それぞれの方の生活様式や体力・年齢・環境、または考え方や性格が異なります。時には外部的要因として天候気候までが大きくかかわってきます。

 そういった様々な要素を踏まえながら身体のどの部分にどういう異変が起きているのか?それを探りながら施術をしています。

 痛いのは腰であっても、痛みを発生させているのはまったく違う箇所というのも日常茶飯事です。私がかつて患者として治療に通っていたとき、なぜ何年たっても治らなかったのかということを今でも思い出してしまいます。痛む腰にスポットを当てすぎると違う要素が見えてこないというのが私の経験則です。

 そして一番大切なことはお越しいただいた方に治っていただくことです。もし私が病院で診てもらった方がいいと判断したら施術はお断りすることもあります。あくまでもその人に一番適した治療なり施術なりを受けることが最優先です。例えば病院で手術を受けた方がよさそうだと感じたら、その理由をお話ししたうえで受診されることをお勧めしています。後日「手術してよかった」とご連絡をいただいたことも何度かあります。

 2007年に日本整形外科学会が提唱された「ロコモティブシンドローム」という言葉があります。「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態 」を言います。簡単に言えば老化や運動不足で筋力が衰え歩くことがままならないというような状態です。腰痛や膝の関節障害などもこのロコモティブシンドロームと関係していると言われています。まあ、自分の身体を支える能力がなくなってくるわけですから、歩くという今まで当たり前にしていたことでさえ腰や膝などに負担がかかるのもうなづけます。

 筋力が衰えるということは関節が悲鳴をあげる大きな要因になるとお考えいただきたいです。病院で手術しようが整体で施術を受けようが、落ちた筋力は戻りません。私がかつてどこに行っても23日程度しか持たなかったのはお世話になった先生方が悪いというのではなく私が運動不足であったことがその理由だったようです。事実、運動を続けることで徐々に身体が変わりだしたという結果を見れば明らかなことです。

 腰痛と向き合うためには運動という要素はかなりのウェートを占めます。だから多くの方にはどこがどう弱って腰痛が治らないようにしているのかもご説明申しあげた上で、どういった運動を取り入れた方がいいのかも時間を割いてお話ししています。よく「老化現象だから…」といって済ませてしまう方もおられますが、若くても年をとっていても痛いのは嫌なもんです。それぞれの方の年齢や体力に合ったやり方で少しずつ筋力アップすることも大切です。

 意外なところでは運動選手もよく来られるのですが、よく鍛えられた身体でも疲労が取りきれず身体機能が著しく低下することで起きる腰痛もあるのです。スポーツと腰痛を克服するための運動は質が全く異なります。そういう点ではやみくもに運動すればいいというわけではなく目的にあったやり方や年齢にあったやり方をしなければ逆効果になる場合もあります。

 最近はストレスが腰痛の原因となりうるという考え方も定着しつつあります。現に環境が変わりストレスがなくなったら長年続いた腰痛があっさりと治ったという例も何度か見ております。でも現実的には職場や家族などの環境を変えられる方はほとんどいません。実は心理的要因が強い場合でも必ず身体に変化が生じます。私はカウンセリングの専門家ではありませんのでそういったアプローチはできません。しかし驚くべきことに強いストレスは身体の異変として現れます。決して何もないところからストレスが腰痛になるわけではありません。心理的要因が身体のいくつかの部分に影響し、そういう部分が拡大してきて初めて腰痛になるのがほとんどです。心と身体はひとつです。だから身体の悪い要素を改善していくことで気持ちが少し楽になることはよくあります。私はストレッサーを無くしてあげることはできませんが、多少はストレスに抗える身体にすることはできるかもしれないと考えています。

 傾向としてはっきりしているのは雨の日には来院者が増えるということ。お年寄りがよく「腰が痛いからもうすぐ雨が降る」なんて言われますが、これはお年寄りではなく若い方でも同じことが言えます。本当のところは雨というより気圧の変化が原因だと考えています。わりとよく聞くのは「何もしていないのに急に腰が痛くなった」というセリフです。気圧と身体の変化に関しては説明すると長くなるので割愛いたしますが、腰痛だけではなく様々な身体の変化を惹き起こします。日本ではまだあまり知られていませんがヨーロッパでは気象と身体の関係を研究されている国もあります。日本でも少しずつ「気象病外来」のある病院が増えてきていますが、お天気と自律神経の関係性は腰痛のみならず、その研究が進みつつあります。

 主だったところをご紹介しましたが、腰痛の関連することはまだまだもっとあるでしょう。私が知らないこともいっぱいあるだろうと思います。非特異性腰痛といって、これという原因がはっきりしない腰痛は85%という数字が厚生労働省から発表されています。私が腰痛のことを考えれば考えるほどわからないことが増えてくるというのもこの数字を見れば仕方のないことかもしれません。

 

「これさえやれば腰痛は治る」といえば説明も簡単ですし納得しやすいでしょう。でも現実にはそういう考え方をしていたころはあまり結果が出ていなかったのも事実。当時は腰痛のことをあまり知らなかったからそう言えたのでしょう。わからないことが増えた今の方がいい結果が多く出てきたというのも皮肉な話ではありますが、それだけ腰痛と向き合うのは単純な考え方ではいけないというのがわかりだしてきました。同時にだからこそ来院された方の様々な要素や環境そして身体の具合を見ながらその腰痛の裏側にあるものを探りながら施術しなければならないと考えています。カリスマでもなくゴッドハンドでもない私ではありますが、真摯に腰痛に取り組んできたことだけはご理解賜りたいと思います。